本文へスキップします。

JSPO中期計画2023-2027座談会

スポーツで社会の課題を解決し
ワクワクする未来を実現する

JSPOは、スポーツの力を主体的かつ健全に活用するとともに、新しい時代における社会課題の解決に貢献することを目的として「JSPO中期計画2023-2027」を2023年3月に策定し、2023年4月から実行期間となりました。
この中期計画は、松尾哲矢氏(立教大学)を座長とする有識者5名によるプロジェクトチームを中心に、JSPO役職員によるワークショップを何度も重ね、ホームページでのパブリックコメント募集や加盟団体への意見募集を経て完成したものです。
中期計画の完成にあたり、プロジェクトチームメンバーによる座談会を行い、それぞれの思いや期待することなどを語っていただきました。本座談会の内容は、中期計画を紐解く参考にもなりますので、是非ご覧ください。

左から、大塚眞一郎氏(日本トライアスロン連合専務理事)、米田恵美氏(米田公認会計士事務所)、松尾哲也氏(立教大学コミュニティ福祉学部教授)、田中安人氏(グリッドCEO)、森岡裕策(JSPO専務理事)

JSPO中期計画2023-2027全体像

「JSPO中期計画2023-2027」は、JSPOの「ミッション」、「ビジョン2027」、「バリュー」に基づき、これらを実現するための「4つの重点項目」と「32の成果目標」を中心に構成しています。

※画像をクリックすると大きな画像が別タブで展開されます
JSPO中期計画2023-2027本文はこちら(3.77MB)

JSPO中期計画2023-2027 特別座談会

嘉納治五郎先生のDNAを受け継ぎ「ミッション・ビジョン・バリュー」を再定義


松尾氏

今回の中期計画では、JSPO の「ミッション、ビジョン、バリュー」を改めて考えることからスタートしました。

1911年、嘉納治五郎先生がわれわれの前身である大日本体育協会を創立した当初から受け継いできた考えをもとに、JSPOの「ミッション・ビジョン・バリュー」を再定義しました。「ミッション」である「スポーツと、望む未来へ。」の副題には「スポーツの力で、人も社会も元気になる仕組みを“ともに”つくる」とあります。つまり、スポーツによって社会課題を解決していくことがわれわれの使命です。
そして、2027年に目指す社会の姿を「だれでも、だれとでも。いつでも、いつまでも。自分らしくスポーツを楽しめる社会へ。」というフレーズにしました。このビジョンを実現していく時の合言葉が「それは誰のためか?」「それは何のためか?」「それはフェアか?」という3つのバリューです。


森岡
専務理事

田中氏

この「ミッション・ビジョン・バリュー」は、もともと経営学の用語で、現在多くの組織で使われています。定義は組織ごとに流動的ですが、「ミッション」は組織のオリジナルな存在意義です。JSPOの「ミッション」は職員、ステークホルダー(利害関係者)が納得できるシンプルなものとなるよう、嘉納治五郎先生の考えから導き出されています。「ビジョン」は、ワクワクする未来、そして「バリュー」は行動パターンです。「バリュー」を適切に行えば、「ビジョン」の達成に近づいていきます。
JSPOは日本のスポーツ団体の統括組織として、各団体と“ともに”仕組みをつくることが必要で、各団体が「JSPOさんがやってくれるんだ」と思ってしまうと、何も動きません。そうならないためには、「バリュー」の実践が一番大事です。

「ミッション」は、われわれが何者かということで、今回、「われわれは仕組みをつくる係です」ということがはっきりうたわれました。JSPOとスポーツ団体それぞれに役割分担があり、一緒に推進していくことが大切なので、「ミッション」でJSPOの存在意義がはっきり掲げられたことはとてもよかったと思います。
今回、JSPOの「バリュー」はすべて「はてな(?)」で終わっているのが重要でして、価値観を並べられるより、「はてな(?)」で問いかけられると、思考が動き始めることが多いのです。


米田氏

大塚氏

世界では、オリンピックに囚われすぎていたスポーツが、コロナ禍で意識が変わり、社会、地域、子ども、健康にどんどんシフトしています。特にスポーツの歴史が長い欧米の国々では、原点に戻ろうという流れが見えてきています。まさにいいタイミングの「ミッション・ビジョン・バリュー」だと思います。

スポーツが社会課題に取り組むと、スポーツと「関係なかった」人とのつながりが生まれる


松尾氏

「ミッション・ビジョン・バリュー」を実現するために4つの重点項目を設定しました。10年、20年後の社会・スポーツ界を想定し、その未来のために現在取り組むべき課題です。

ベビーブームであった1949年の出生数が約270万人であったのが、2021年はわずか約81万人。子どもが減って部活動が成り立たなくなり始めているため、次の5カ年の目標としては、やはり「地域スポーツの最適化」が重要かと考えます。


森岡
専務理事

松尾氏

人口減少社会に応じた新たな仕組みづくりを、今やらないと間に合わなくなります。学校部活動の地域移行というのは、「移す」のではなく、少ない子どもをみんなで守る、みんなで支えるという構図をどうつくるかということが重要だと思います。

このコロナ禍で、日本においても世界においても、社会とスポーツがどう向き合うかが問いただされ、「スポーツはいらないんじゃないか」という意見さえある中で、この社会に向き合った重点項目を打ち出したことは、加盟団体にとって大きな羅針盤になると思います。
重点項目4「次世代につなぐ新たな仕組みの実現」は、その他3つの重点項目にも関わりますから、特に重要だと思います。次世代に向けて、地域のコミュニティーや指導者との関わりをどうつくるか。
重点項目2「多様性の尊重」については、障がいの有無や性別の区別なく受け入れるということだけでなく、そのような概念を意識さえもしないような、もうひとつ上の価値観を次世代に伝えていくことが必要です。世界、特に欧米では、そういう方向になっていますし、そうしないと本当の多様性には至らない。それがスポーツで実現できればこんなに素晴らしいことはないと思います。


大塚氏

米田氏

私はJリーグからスポーツ界に関わったのですが、競技が好きな人向けに閉じられた世界に感じました。また、勝つことだけをヒエラルキー(階層)の頂点として組織が追及するとスポーツを様々な角度から楽しもうという人たちは置き去りにされがちです。「シャレン!」と呼ばれる社会連携の活動を始めた背景はここにもありました。
Jリーグが地域の人や団体と一緒に社会の課題に取り組むもので、「外に開いていく」というメッセージでもありました。こうしてスポーツが社会課題を解決していくと、世の中の人たちがスポーツに関わる接点が増えていきます。

スポーツが社会課題に取り組むと、社会の人とスポーツの接点が広がる。重要なキーワードですね。


松尾氏

米田氏

「スポーツは関係ない」と思っていた人たちが「関係ある」になり、すると、「スポーツっていいね、スポーツ団体があるっていいね」と思い始める。「あの人たち応援したほうがいい」、「街がよくなっていくね」と思っていただけたらもう大成功です。

歴史のDNAから紡ぎ出されたものじゃないと、ものごとは動かないんですね。よそから持ってきてとってつけたようなものだと、まず職員が動かないです。泥臭いけど懐かしい感じがする、そんな時に組織は成功します。その観点から、この4つの重点項目はJSPOのDNAから導かれています。


田中氏

組織において継続は停滞なり 日々の仕事に、はてな(?)とチャレンジを


松尾氏

重点項目に基づき32の成果目標が設定されました。注目している成果目標やこれからのJSPOに期待することはありますか。

成果目標については、女性の立場からすると女性スポーツの促進に期待します。
それから、私はJリーグの「百年構想」のような、老若男女が自分の好きなスポーツを楽しみ、仕事終わりにスポーツを楽しむ地域の実現を期待します。
これを組織に経営サイクルとしてインストールし、目的と戦略が一致しているのか、もしくは戦略とアクションがちゃんとつながっているのかを絶えず見直し続けていただきたいです。中期計画の策定過程でもお伝えしましたが、責任を明確化することが重要です。特に役員は、どの領域に自分がコミットして、責任者として推進していくのかという「責任の高度化」が必要かと思います。


米田氏

田中氏

この中期計画はバージョン1.0で、これから2.0、3.0と進化していきます。まず小さなことに取り組んで、1個1個のスモールサクセスを横串でつなげる。これを積み重ねた先にビッグサクセスがあります。

今回の計画策定では、JSPOのリスクを取る覚悟を強く感じています。
そうであるからには、われわれ加盟団体はしっかりついていこう、われわれもやるぞという意気込みです。
JSPOがリスクを恐れず責任の高度化を進めていただければ、重点項目で示した4つの項目を羅針盤として港に向かっていく船に、われわれも一緒に乗っていくことができます。JSPOとの関係がそのように進めば、加盟団体は自発的に横連携をしていきながら、日本スポーツ発展の大きな力にも、エンジンにもなっていけるのではないかと感じました。
注目する成果目標をあえてあげるとすれば、スポーツによる国際協力を成果目標に掲げていただいたことは大変な進化だと思います。オリンピックにこだわらない国際交流ですから、若い人たちをもう一度スポーツの世界に呼び込めるような新しい交流を見つけられるのではないかと、いちばん期待しているところです。


大塚氏

森岡
専務理事

皆さんにお話をうかがって思ったのは、JSPOは責任を高度化しながら、124の加盟団体をファシリテート(促進)していかなければならないということです。
もう一点、今日は話に出ませんでしたが、2023年は暴力行為根絶宣言から10年の節目なのですが、2022年度の相談件数は過去最高を数えております。次の10年に向けて、加盟団体とともに、本気になって根絶していこうという決意です。

田中さんから、プロジェクトを横串刺ししてやっていくんだという話がありました。
これは新しいチャレンジだと思います。今回新しい計画の形を作りましたけれども、まだまだ縦割り的なものもあります。縦の小さな成果を横串に刺す。縦と横が揃ってやっと平面的な展開ができる計画になっているところが重要であると思います。
個人であれば「継続は力なり」はポジティブな言葉ですが、今日聞いていて思ったのは、「組織というのは、継続は停滞なり」だということです。皆さん、本日はありがとうございました。


松尾氏